【僕が見たメキシコという国】

人の役に立つ人間になる

ペルーのリマに向かう前日、メキシコ最終日の夜10時、
翌朝5:30起きだというのに大変なことが起こりました。

明日は早いから早く寝ようということで、ホテルでそろそろ就寝体制に入ろうかと思っていた頃、4歳長女の泣き叫ぶ声が部屋中に響き渡りました。

長い夜の始まりでした。

我が娘、救急搬送

妻が、何事か!と抱き上げてみると、なんと長女の口から血が流れ出ているではありませんか!

どうやら、寝ている4歳長女の顔面に1歳長男が背面頭突きを食らわしたようで、長女の前歯2本がグラグラになって取れかけていて、そこから出血しているようでした。

自分のことならいざ知らず、子供!しかも女の子!前歯取れそう!

これはさすがにまずいと思い、とりあえずホテルのフロントで電話を借りて海外旅行保険の緊急ダイヤルに電話をして、急いで近くの病院を探してもらいました。しかし、ここまでは日本語で通じたけどここから先の言葉の壁が!笑

自慢ではありませんが、僕はスペイン語が全くわかりません!笑
(ありがとうと数字の1と2しか知らない)

ホテルのフロントマンもスペイン語しか喋れないしどうしようか思案していると、そういえば「Yさん」がいるではないか!妻の友人でメキシコ在住の「Yさん」に急遽電話をかけ、ホテルのフロントマンとの通訳をお願いし、ホテルの電話を借り、海外旅行保険会社とやり取りをし、搬送先を見つけ、タクシーを手配し、慌てて必要なものを揃えて病院に向かいました。

タクシーの運ちゃんに海外旅行保険の指定する病院を伝えたけれど、その場所は30㎞以上離れた場所だと言うし、深夜料金でお金がめっちゃかかるというのと、〝すぐに診てもらいたいのにちょっと遠すぎじゃね?〟というのと〝そもそも運ちゃんなんか間違えてね?〟っていう疑問がやばかったので、

タクシーの運ちゃんに「やっぱり戻ってくれ!」とお願いしました。もう一度ホテルに戻り、海外旅行保険会社に電話をしてみると、どうやら送迎のタクシー代、病院代が保険適用になるのがその指定の病院しかないとのこと。

「でも、近くの病院でいいならもっと他にあるよ」ってことなので、妻と相談し、「お金かかってもいいから近いとこに行こうぜ」という結論に達し、急いで近くの病院に行くことにしました。

しかし、次に「小児科と総合病院どちらがいいですか?」という2択を迫られ、困りました。

〝う~ん…〟
〝なんかこれ、運命の選択のような気がする…笑〟

以下、5秒間の思考略歴

確かに、怪我をしたのは子供だし小児科なのか?でも、待てよ・・・前歯だぞ?本当なら歯医者に直行したいところだが、深夜なのでどこもやっていない…。そうそう、それはわかっている。そんなことはわかっているんだ。だから俺は今、この2択を迫られているんだ。で、どっちが正解なんだ?小児科?総合病院?総合病院ってなんか、めっちゃ待たされる気がするな…。すごい混んでる気がするけど、どうなんだろうか?いや、そんなこといくら考えても答えなど行ってみないとわからないのだ。でも、小児科ってなんか、多分、歯とかの知識ある奴いないよな?だったら総合病院か?でも総合病院でも歯科の知識ある医者なんていないよな?いやいや、どうせどこに行こうがろくな治療など受けられるはずがない。いや、待てよ、そういえば顎も凹んるな。この子のこの顎。え?今気づいたけど顎めっちゃ凹んでるやん。歯もグラグラだけど、顎も凹んでるやん。これ、レントゲンとか取ったほうがいいのでは?総合病院優勢じゃね?よし決めた!総合病院だ!

「総合病院でお願いします!!!」

タクシーの運ちゃんに行き先を告げ、再びタクシーは走り出しました。タクシーの運ちゃんもこちらの〝ただならぬ〟雰囲気を察してくれて、深夜のメキシコシティを爆走してくれて、15分くらいで病院に到着しました。

到着してびっくり。『病院ちっちゃい!!』

総合病院と聞くとなんかやたら大きいイメージがあるのか、想像と現実のギャップがやばくて、「え?これが総合病院?」って感じでした。しかもメキシコの夜は薄暗く、薄暗い病院の照明に照らされて、浮浪者やら怪しい人物やらが病院の入り口付近で何人もウロウロしているのが見えました。

タクシーを降りるとすぐに浮浪者やら怪しい人物などがゾンビみたいに寄ってきて、僕ら外国人家族はすぐに囲まれ、なにやらスペイン語で話しかけられました。

それが何の目的で話しかけてきてるのか全くわからないところが、いかにもメキシコの治安の悪さを象徴しているように思えて、瞬時に、「一切関わらないほうがいい。」と判断しました。

『とにかく一刻も早く娘を治療しなくてはならない』

その為に、〝こいつら〟に無駄な時間を使う必要はないと思い、何を言われても、視界にも入っていないし聞こえてもいないフリをして無視しました。

急いで、病院の受付に向かうと、他の患者からまた何か言われました。マジで何言ってるか全然わかんないんですけど、程なくしてタクシーの運ちゃんが中まで入ってきてくれて、その何か言ってきた人と少しやりとりをし、「おい、出るぞ!」みたいなジェスチャーをしました。

何が何やらって感じでしたが、多分、「外国人は受け付けていない病院」とか、そんな感じの理由だったのではないかと推測しました。それに、iPhoneのGoogleマップで場所を確認していましたが、海外旅行保険会社に教えてもらった病院とはちょっと違う場所にあり、

「あ、この運ちゃん病院間違えやがったな!」とタクシーの運ちゃんのミスを察しました。笑

その間もずっと娘は泣き続けて痛みを訴えてくるし、治療までの時間がどんどん遠ざかっていくし、ろくな治療を受けられる保証もないし、〝なんだこれ、マジでどうなるんだよ!〟っていう、怒りと不安と後悔といろんな感情が混ざり合いながら、時計の針だけが無情にも正確に時を刻んでいました。

うちの子は4歳の長女、1歳の長男、2人とも生まれつき脳の病気で障害児です。だから、4歳の長女も自分で立って歩くこともできず、自分でご飯も食べられないし、言葉を喋ることもできず、知能の発達も遅れています。

次の病院に向かうタクシーの中で、この時ほど、「娘と喋りたい!」と思ったことはありません。

普段は喋れなくても、なんとなく言いたいことはわかるし、身体や知的には不自由だけど、別になんの問題もありません。しかし、このメキシコの深夜のタクシーの中で、その「痛み」を泣くことで訴え続ける娘を腕の中で抱いていると、怒りとか不安とか後悔とかいろんな感情が混ざっているけれども、「娘と話をしたい!」という気持ちが一番強くなっていきました。

喋ることができれば、もっと安心させてあげられるし、不安を取り除いてあげることができたのかもしれません。しかし、この時はただ抱きしめることしかできませんでした…。

神の遣い現る・・・

今度こそお目当ての病院に着き、受付に行きましたがここでも言葉が通じず、見かねたタクシーの運ちゃんが間に入ってくれて、カタコトとも言えない、なんとも絶妙な通訳で必要な情報を伝えましたが、それにはどうしても限界があり、笑

通信料とかどうでもいいので、妻の持っている携帯からメキシコ在住の「Yさん」に電話通訳をお願いし、そのおかげで受付を無事に済ませることができました。しかし、病院の待合室はとても混んでいて、最低でも1時間は待つ。とのことでした。

Yさんが気を利かせて、「緊急なら先に診てもらえるように、お願いしてみようか?」と言ってくれましたが、お断りしました。それは、他の待っている患者さんに悪いと思ったからです。

生死を分けるような事態であればどうかわかりませんが、多分、死ぬようなことはないだろうし、もうこの際、1時間くらい待っても結果は同じだと思うので、他の患者さんのことを思うと、そんなお願いはできませんでした。

この時点で時刻は夜の12時過ぎで、タクシーの運ちゃんが〝俺もう帰っていいかな?〟的な雰囲気を醸してきたので、「運ちゃんありがとう」と言って、タクシー代とチップを多めに支払って帰ってもらいました。

待合室のベンチに座り、長女は歯が痛くて泣いているし、弟は疲れて眠っているし、妻も弟を抱いて眠っているし、これから1時間以上このベンチで待たなくてはならないし、この先どうなるかもわからないし、薄暗い深夜の病院の待合室で絶望的な気持ちになりました。

そこへ、一人の若い女性が英語で話しかけてきてくれて、「もしよければ、お医者さんとのやり取りを通訳しましょうか?」っていう願ってもない提案をしてくれました。多分、受付で慌てふためく外国人家族を見て、同情してくれたんでしょう。笑

「Yさん」にまた電話通訳をお願いすることもできましたが時間も時間だったし、もうここまでこればなんとかなるでしょと思ったし、Yさんに悪いと思ったので、その通訳の提案を快く受けさせていただきました。

「呼ばれたら教えて。私も一緒に入るから」
と言ってくれて、本当に天使なんじゃないかと思いました。笑

1時間くらい待ってようやく名前を呼ばれると、また別の若い女性が話しかけてきてくれて、「もしよろしければ通訳しましょうか?」っていう提案をしてくれました。一人だけじゃなく、二人もそんなことを言ってくれる人が現れるなんて、有難すぎて涙が出そうになりました。

しかも、二人目の方は英語が喋れず、スマホの通訳アプリを使ってなんとか僕らを助けようとしてくれていたみたいです。二人目の方には「どうもありがとう」とだけ伝え、気持ちだけ頂くことにしました。

診察室に入ると、これまた若い女性のお医者さんが待ち受けていて、その人も結構英語が喋れたので、僕と通訳の女性とお医者さんの3人で、娘の症状について話し合い、最初に想定していたよりも、かなりスムーズに診察を受けることができました。

事故当時は言葉の壁があるから、どうやってコミュニケーションをとったらいいのか見当もつきませんでしたが、いろんな人がその都度助けてくれて、いろんな人のおかげで無事に診察ができました。本当にありがたい・・・。

一通り、診察を終えると、「レントゲンを撮る?」って聞かれたので、「お願いします!!!」と元気良く答えました。こちらとしてもレントゲンを撮ってもらうためにこの病院を選んだわけですから、何が何でも是が非でも撮ってもらいたかったので、最高の医療を受けることができて本当に最高です。

レントゲン室に行って、無機質な冷たい手術台みたいなとこに娘を寝かせると、「泣くかな?」と思ったけど、娘は全く泣きませんでした。それどころか、何かを悟ったように無表情でされるがままになっていました。

自慢ではないですが、うちの娘は知能の発達は遅れていますが、ものすごく賢いです。

きっと周りの状況を観察して、自分の置かれている立場を理解し、その現実を彼女なりに受け入れたのでしょう。深夜の病院で他の子供達の泣き声が止むことはありませんでしたが、うちの娘だけが泣くこともなく、ただ無表情でレントゲンを撮られていました。

「我が子ながら天晴れな子じゃ!」そう思いました。

診察結果を待つ間、通訳をしてくれた女性とたくさんお話をしました。

名前がアレジャンドラということ、
彼女の母がナンシーということ、
自分も患者であること、
メキシコは治安が悪いということ・・・
「ここからどうやって帰るの?」と聞かれたので、「タクシーで帰るよ」というと、「危ないからやめておいたほうがいい」と言われました。タクシーの運ちゃんに銃で脅される可能性があるらしいです。

「ホテルはどこ?うちのパパとママが送って行ってあげる」と、またしても天使の提案をしてくれました。

自分一人なら別にどうなってもいいですが、家族を危険にさらすのはどうかと思ったので、その提案も快く受けさせてもらいました。僕は何かお返しがしたかったけれどもお金しか持っていなくて、〝でも、こういう人ってお金受け取ってくれないんだよなー〟と思いながら、何かお礼がしたいんですけど・・・って言ったら、やっぱり何も受け取ってくれなくて、体を張った「一発芸」でもしようかなと思いましたが、お礼にならないのでやめました。

それでも、とにかく感謝の気持ちだけは伝えようと思い、感謝の言葉を述べていると、「何も心配しなくていい。私が望んでやっていることだから」みたいなことを言われ、この人なんやねん!メキシコなんやねん!と感動してしまいました。

娘が怪我をしたことは大変だったけど、こんな天使みたいな人に出会えて、自分の中でいろんな気づきが得られて本当に良かったと思いました。この人はただ自分がそうしたいからしているだけ。困っている人を助けたいから助けているだけ。だったら、次は自分の番でしょ。アレジャンドラがお礼を受け取ってくれないのであれば、今この受けた魂のバトンを自分は次の人に渡す役割がある。そう思いました。

そうやって、自分が受けた恩をまた次の人に手渡していく。そんな連鎖が続いていけばきっとこの世の中は良くなっていくし、この世界から戦争や悲しい出来事は少なくなっていくはず。だから、これから僕は、アレジャンドラのように「困っている人がいたら無条件で手を差し伸べる人間になる!」と決意しました。

突然、アレジャンドラが「あなたfacebookやってない!?」と聞いてきたので、「もちろんやっているとも!」ということで、facebookでつながることができました。こうやってネット上で繋がることによって、またいつかお礼ができるような気がしました。

で、お医者さんが戻ってきて診察の結果、『特に何もしなくて良い』とのことでした。

歯も折れていないし、顎の骨も折れていない。歯はグラグラしているけど、安静にしていればそのうち引っ付くらしく、〝ほんまかいな〟って、ちょっと疑いましたが、まぁ、なるようになるのでしょう。笑

それから痛み止めの怪しい赤い液体と巨大な注射器を渡され、〝なんやねんこれ!〟とびっくりしましたが、使用方法をちゃんと聞いたので大丈夫です。

お医者さんから、「最後に何か聞きたいことは?」と聞かれたので、「クレジットカードで払えますか?」と聞いたところ、「その必要はない。無料だから。」と言われました。「え?なんで?」と聞くと、「なんでもクソもねーんだよ」と言われ、「え?なんで?」ともう一度聞くと、「公共の病院は無料に決まってんだろ」と若干キレ気味に言われました。

〝え、やだ・・・なにこの国ステキ・・・・〟

メキシコの底力を見させてもらった気分でした。そうして、アレジャンドラはそのまま喘息をこじらせて入院し、アレジャンドラのパパとママにホテルまで送ってもらい、翌朝、予定通りの飛行機に乗って無事ペルーに着きました。

終わりに・・・

メキシコは障害者に優しい国です。メキシコはまだまだインフラが整っておらず、日本に比べて、道路もガタガタだし、色々クオリティ低いし、Wi-Fi微弱なとこ多いし、GDPも低いですが、駐車場には必ず車椅子エリアが用意され、空港にも障害者専用ベンチなどが用意され、街のいたるところでも「車椅子マーク」を見かけることができます。

僕の子供は障害者なので、僕自身も障害者視点を持っています。多分、普通の旅行者がメキシコを旅していて、「メキシコは懐が深いな~」と感じることは少ないと思います。

しかし、「障害者」という切り口でメキシコという国を見たとき、そこには、「底知れぬ愛情」を感じることができます。普通は、障害者のために設備投資をしたり、余計な税金を使ったりはしません。このメキシコのインフラレベルを見る限り、もっと他にお金の使い道はあると思います。しかし、僕は今回の旅行で、障害者や医療を受ける人に対して、「健常の人と同じように生活できるような配慮」というものをメキシコの街から感じました。

他の街はどうか知りませんが、少なくとも僕が訪れた街ではそうでした。

医療費が無料であること、街で見かける「車椅子マーク」が他の国に比べて異常に多いこと、この2つのことから、『どんな人も平等に生きていくべき』というような、メキシコからの〝メッセージ〟を感じとることができます。

治安が悪いとか、街が汚いとか、色々と悪い部分がフォーカスされがちなメキシコですが、僕ら家族がメキシコから受けた〝恩恵〟に比べれば、そんなことは全く問題ではありません。

むしろ僕は今、メキシコ人に銃で脅されて、有り金を全部持って行かれてもいいとすら思っています。なんなら、僕の持っている金銭的価値を全て渡してもいいくらいです。

僕が見たメキシコという国は、懐が深く、愛情に溢れていて、とっても優しい国です。「困っている人を助けることが、私の望み」と言ってくれる人がいます。

娘の命の恩人というと大げさですが、それくらい感謝できる人が住んでいる国です。また旅から多くのことを学ばせてもらいました。自分も絶対にいつか、困っている人を助けて「何も心配しなくていい。私が望んでやっていることだから」って言うんだ!

ありがとうメキシコ!さよならメキシコ!

以上です!
どうもありがとうございました!

コメント